vol.7 四逆散

[漢方とは]医師が語る 忘れがたい漢方
vol.7 四逆散(しぎゃくさん)
吉野 鉄大 先生

医学生時代に内服して効果を実感

漢方のことを知ったのは、医学部の3年生の時に受けた講義でした。冷え月経痛といった女性のための治療、というイメージが強かった漢方がアトピー皮膚炎にも使用されることが多いと聞いて驚きました。子供の頃からアトピー性皮膚炎で悩んでいた自分は、皮膚科での治療とともに漢方薬も試してみようと思い、半信半疑のままとりあえず漢方外来を受診してみました。そこで処方されたのが、四逆散(しぎゃくさん)と黄連解毒湯(おうれんげどくとう)でした。医学部でのストレスと、生活習慣の乱れが皮膚のかゆみのもとになっているだろうとのことで、選択されたようです。漢方薬の内服に加え、スキンケア、食事の内容についても指導をうけました。
処方を内服すると、スッと気持ちが楽になるようで、皮膚のかゆみも楽になります。半年、1年と使用していくうちに次第に皮膚の状態は改善し、医学部を卒業する前にはもうアトピー性皮膚炎だったということを忘れるくらいにすっかりきれいになりました。

若い男性に使用することの多い処方

四逆散(しぎゃくさん)は、若い男性に使用することの多い処方です。仕事や学業、人間関係によるストレスにより、イライラしてしまったり、下痢や倦怠感、喘息のような身体症状に現れてしまっているような場合に用います。もともとかなりアグレッシブだった方も、内服を続けることで、人と衝突することが減ったとおっしゃり、診察時にも明らかに「まるくなったな」と感じることが多いです。
僕は、学生のころは四逆散(しぎゃくさん)の内服で、スッと楽になっていたのですが、最近は内服するとかえってだるくなってしまうような気がします。もう昔のような勢いは失われてしまったのかもしれません。最近は、比較的高齢男性に処方することの多い八味地黄丸(はちみじおうがん)を服用しています。

漢方らしい考え方で処方を選択する

四逆散(しぎゃくさん)を選択する時のヒントは幾つかあります。一つが、先ほどの、「ストレスフルな生活を続けている若い男性」ですが、もう一つ重要なことはお腹を診察した時の、みぞおちから脇腹にかけての抵抗感や痛みと腹直筋の緊張です。いくつかのヒントがそろえば、四逆散(しぎゃくさん)を試してみる価値はあるでしょう。
先ほどの、下痢、倦怠感、喘息に加えて、慢性の痛み、お子さんの不登校やADHDに使用されているという報告もあります。特定の症状や西洋医学的な病名に対して処方するというよりは、漢方医学的に考えることが求められる処方ということもできるでしょう。

他の処方と組み合わせることも

四逆散(しぎゃくさん)は、四種類の生薬だけで構成され、漢方薬の中では比較的単純な処方です。少し苦味もありますが、意外と抵抗なく内服することができます。そして、その単純な構成から、他の処方と組み合わせて用いられることも多くあります。例えば、僕が学生時代に使用した、四逆散(しぎゃくさん)に黄連解毒湯(おうれんげどくとう)を合わせるというのはアトピー皮膚炎によく使われる処方です。また、香蘇散(こうそさん)を合わせると柴胡疎肝散(さいこそかんさん)という処方に近くなり、慢性の痛みに対して用いられて効果を発揮しています。六君子湯(りっくんしとう)を合わせると柴芍六君子湯(さいしゃくりっくんしとう)となり、ストレス性の胃炎に用いられ、二陳湯(にちんとう)と合わせると枳縮二陳湯(きしゅくにちんとう)に近くてやはり慢性の痛みや胃炎に用いられます。血のめぐりが悪いことによる症状と考えられる時に、血流を改善する桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を合わせて効果を発揮した報告もみられます。逆に、四逆散(しぎゃくさん)と類似した場面で用いられる処方として、大柴胡湯(だいさいことう)や抑肝散(よくかんさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)が挙げられます。そのため、処方の選択にはやはり漢方医の診察を受けていただく必要があるとも言えるでしょう。
インターネット上には、健康に関する様々な情報があふれるようになり、漢方薬についても否定的な意見から過剰に期待する意見までみられます。そういった情報に一喜一憂することなく、上手に付き合っていくためにも、西洋医学と漢方医学の特徴をよく理解した医師・薬剤師に相談した上で漢方薬を内服していただければと思います。

プロフィール

吉野 鉄大 TETSUHIRO YOSHINO

慶應義塾大学医学部漢方医学センター特任講師。慶應義塾大学医学部卒業。練馬総合病院、水戸赤十字病院、慶應義塾大学医学部漢方医学センター助教、オレゴン州立大学訪問研究員を経て、現職。
博士(医学)、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、米国内科学会上級会員、日本東洋医学会漢方専門医・指導医・代議員、日本漢方生薬ソムリエ(初級)、JSAワインエキスパート。
内科学も漢方医学も、学べば学ぶほど無限に知識の地平が広がっていることに圧倒されますが、克己精進を座右の銘に勉強しています。

慶應義塾大学病院 漢方クリニック 漢方外来担当

〒160-8582 東京都新宿区信濃町35
TEL:03-3353-1211(代表)
http://www.keio-kampo.jp/

川崎市立川崎病院 漢方外来担当

〒210-0013 川崎市川崎区新川通12-1
TEL:044-233-5521(代表)
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稲城市立病院 漢方外来担当

〒206-0801 東京都稲城市大丸1171
TEL:042-377-0931(代表)
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南大沢メディカルプラザ 内科・漢方外来担当

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